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『我らの不快な隣人』の書評?宗教評論家 芹沢俊介 

書評・感想(1)

『読売ウィークリー』 08年10月5日号

目を覆いたくなる「救出」劇 (評者 評論家・芹沢俊介
 

 久しぶりに「衝撃的な」という形容を留保なしに使っていいノンフィクションに出会った。副題に「統一教会から『救出』されたある女性信者の悲劇」とあるように、「救出」されなかったことの悲劇ではなく、「救出」されたことの悲劇を描いたのがこの本なのである。

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 著者は、私たちが触れることを恐れていた地点にまで踏み込んで問いかけてくる。統一教会はこの世界にあってはならない悪のカルト教団であり、したがって撲滅すべきだというのは本当か。統一教会信者はみなマインドコントロールされている。それゆえ一人残らず「救出」の対象であり、改宗の対象であるという認識は正しいか。また合同結婚式で韓国に渡り、韓国人男性と結婚した日本人女性信者たち6500人が行方不明となっているという、反統一教会側の人たちが流している情報は、本当だろうか?著者の答えは全てにわたって「ノー」である。

 行方不明といわれている女性たちが実は行方不明でもなんでもなく、日本の家族と連絡を取り合い、子供と夫を連れて里帰りをしている人たちが殆んどである。少なくとも、居所を伝えていない者は皆無。しかも日本人女性たちは韓国社会にしっかりと根を下ろしているというのだ。衝撃的であった。


 著者が真正面から挑んだのは、「救出」劇のとてつもない暴力性に対してである。統一教会から我が子を取り戻して欲しいという家族の依頼を受け、脱会請負の「専門家」(主にキリスト教の牧師)たちが動き出す。力による問答無用の拉致。そこからはじまる一方的な脱会の説得。説得という名の罵倒、こきおろし。脱会の応じない場合の何ヶ月におよぶ密室への閉じ込め。それを監視する元信者と家族。専門家によって駆使されるお粗末なマインドコントロール論・・・・。

 体験者たちが語るこの「救出」過程のすさまじさは、目を覆いたくなるほどだ。「救出」されたばかりに、元信者たちは立ち直り不能なくらい深い精神的損傷を被ったのだ。家族不信、人間不信、PTSD(拉致監禁がその後の生活にもたらしたトラウマ)、心身症に苦しみながら生きる元信者の痛々しい姿が、無類の説得力をもって私たちの前に浮かび上がってくる。

 著者のいいたいことは、こうだ。 統一教会もその信者も「不快な隣人」かもしれないけれど、決して平和的に共存できない相手ではない、と。綿密な取材をもとに ここに導き出されたこの結論に、私はうなずかざるを得なかった。

(注)細い字で本の帯に書かれた一文は「<異物への不寛容>が蔓延する社会を、統一教会信者はどのように生きたか。「スピリッチャアル」時代における、本当の<救い>はどこにあるのか。合同結婚式騒動から15年ーー忘れられた日本人の知られざる攻防史」となっている。

 異物への不寛容がいつ頃から始まったのかはわからないが、79?80年に起きたイエスの方舟事件は国民・マスコミが特定宗教団体を排斥した典型的な事件だった。この事件の構造を『「イエスの方舟」論』(ちくま文庫)で絵解きをしたのは芹沢俊介氏だった。
 千石剛賢(せんごく たけよし)氏が率いるイエスの方舟を、批判の大合唱の中で、唯一価値中立的に報じたのは『サンデー毎日』。マスコミは、こぞってサンデー毎日を「イエスの方舟の広報誌」と揶揄した。

 統一教会信者への拉致監禁の実態を暴くと、反カルト諸兄は、「統一教会系ライター」と揶揄する。
 30年前と構造はまったく変わっていないのだ。いや、それどころか、不気味なことに、「異物への不寛容」はますます強まっている。
 拙著に興味を持たれた方は、ぜひ芹沢氏の『「イエスの方舟」論』を読んでみてください。

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コメント

グッドタイミング!

書評掲載、グッドタイミングですね。ホッとします(^^)。

実感として迫る拉致監禁の恐怖

「我らの不快な隣人」を読んで、そのあまりに生々しいルポに、一体自分は拉致監禁という事実にどう向き合ってきたのか深く考えさせられました。
統一教会内で、拉致監禁のことを語られることは確かにありましたし、教会機関紙や出版物でも知ることは出来ました。しかし、(私の情報収集不足かもしれませんが)ここまで拉致監禁という事実を深刻にとらえることができていませんでした。後藤氏が12年5ヶ月監禁されて出てきたということを知ったときも、よくがんばったと感嘆はしましたが、ご本人の通過してこられた年月の重さを実感することは出来ていませんでした。統一教会内部にあって、私と同じような方は実際多いのではないでしょうか?米本さんに、統一教会は、拉致監禁に対して何もしてこなかったと指摘されてもしかたのない状況ということでしょう。
強制改宗により、心ならずも離教された方々の心の傷の重さも、この本で初めて知りました。米本さんが、この本を通じて私たちに教えて下さったことを本当に感謝いたします。
教会本部も、本格的に拉致監禁について取り組み始めていますが、その取り組みの中に、拉致監禁を経験された方々の心のケアを最重要課題として取り組んでいただきたいです。

我らの不快な隣人とカルトの子を読み終えて

「カルトの子」は、親の価値観を子に無理強いした結果の恐ろしい悲劇、私自身87年から92年まで組織で人材と経済復帰に励んでいて良く分かります。結果は、動機の表れ、今も「神様が払うから借りてくるように・・」とか表彰されることが動機にあると魔が入り、神様は、働けない、自分の家族を守るのと御国実現に向けて文師を手助け楽にし、神様が喜ばれるようにバランスよく信仰を立てれたか?私は、文師に出会い真理を知ることによって幸いにも子供に優しく、夫との信頼関係も築くことができたのですが・・先に召された先輩方や文師は、キリスト教の基盤を失いたった、ひとりから出発し世界まで認められる為には、自己犠牲と御家族の犠牲が不可欠になった・・その犠牲の上の今日、韓国の元大統領の次女の方が祝福を受けるまでに・・イエスも十字架の道でなければ同じように苦難の人生だっただろうと推測できます。如何に神と主の心情を思い歩めるか?自分の動機が神か?魔か?結果が全てに表れるのでは?「我らの不快な隣人」は、統一教会の間違った手法とマスコミ対応で世間体を悪くした結果の大きな犠牲、まさに現代のクリスチャンの踏み絵だと確信しました。相対者が奪われた悲しみと犯罪者扱いされた悔しさなど体験した者と家族にしか理解できない・・もう思い出したくもないけどまだ、繰り返され被害者が増えていることを考えるといい加減な報道をしたワイドショーにも重大な責任があると考えます。報道するなら良い面も悪い面も公平にすべきだとその点、ネット社会になって米本氏のように中立の立場で拉致監禁をなくす会を支援してくださる一般の方が増えて神様に感謝です。明日から「洗脳の楽園」を読み始めますので後で感想を投稿したいと思います。ありがとうございました。

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