家族の解体
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一筆一論(3)
家族の解体
実に、不可解なことがある。
門田家の明るい話と打って変わって、今度は少々暗い話である。
牧師など脱会説得者たちは「統一教会問題は家族の問題だ」という。どういう意味か正確にはわかないが、子どもが統一教会に入信したことによって家族の関係が悪化した。だから、統一教会問題とは畢竟、家族の問題という意味だろう。
そうだとすると、理解不能なことが生じる。
もし家族の問題だとしたら、子どもが脱会すればメデタシメデタシとなって、子どもが入信する以前の家庭の状態に戻り、家族関係は良くなるはずである。
父親がアル中の場合、父親が断酒すればアル中前の家庭に戻り、家族関係は良くなるし、多重債務に陥っている家庭はサラ金地獄から抜け出れば、平穏さを取り戻す。
問題が生じた場合、問題の原因を取り除けば、問題は解決する。
これは、論理的必然であり、私たちが日常的に経験していることでもある。
ところが、こと統一教会の家族問題はそうではないのだ。
静岡県立大学准教授の西田公昭氏(日本脱カルト協会理事)は『マインド・コントロールとは何か』(紀伊国屋書店)で、次のように書いている。
「(脱会後)特に親子関係は引き続き解決を見ないのが通常である。多くの元信者は親との同居を好まず、新しい親子関係を模索しようとする。両者の関係の進展は急がず、4、5年といったゆっくりした時間の中で修復、改善するのが望ましいと思われる」
反“カルト”の立場を鮮明にしている学者の言葉ゆえ、嘘や誇張はないだろう。
実際、私も取材した限りでの話だが、統一教会をやめたにもかかわらず、親子関係や兄弟姉妹関係が元通りに戻ったというケースはゼロであった。唯一の例外は、ルポと『我らの不快な隣人』の主人公、麻子の家庭だけである。
(『我らの不快な隣人』 216~220頁と153~155頁参照)
もしブログ読者に信者家族の方がいらっしゃったら、どうかじっくり考えてみてください。
子どもが統一教会をやめたのに、どうして「親子関係は引き続き解決を見ない」のか、どうして「4、5年」もかかるのか、なぜあえて「修復、改善」といった作業が必要なのか、と。
問題が生じた場合、問題の原因を取り除けば、問題は解決する。
それなのに、西田氏は問題の原因を取り除いたにもかかわらず、問題(親子問題)は解決しないという。
どういうわけなのか。
唯一考えられるのは、原因を取り除く過程で新たな問題が生じたということだ。
新たに発生した問題とは何か。それは、はっきりしている。
統一教会から脱会させる過程で、家族が子どもを拉致監禁し、監禁下で牧師の説得を受けさせるという、子どもの心に激しい衝撃を与えてしまったからだ。信頼していた親や兄弟から監禁されたショックは大きく、そのため脱会しても、傷が癒えるまでには4、5年はかかるということなのである。
西田氏は前掲の自著で、事実を指摘するだけにとどめ、なぜ子どもが脱会したのに親子関係が引き続きうまくいかないのか、その理由について言及していない。
西田氏は明らかに、「新たに発生した問題」のことは知っていた。
なぜなら、彼は監禁部屋で保護説得の様子を観察したことがあるからだ。ちなみに、反統一教会が好んで使う<保護>とは、ふつうの日本語でいえば<拉致監禁>である。
(保護か拉致監禁かの用語法については、あらためて一筆一論で書くつもりだ)
名古屋・青春を返せ裁判での証言録(99年7月)を引用しておく。
研究者仲間も知らないであろう本邦初公開の文章である。
統一教会側の代理人の質問は一部わかりすく修正したが、西田氏の証言はそのままである。
代理人 脱会カウンセラーの人たちがどんなことをしているのか、あなたは知っていますか。
西田 それは人によって全く同じとは言えないでしょうが、基本的に教義の誤りについてとかマインド・コントロールについてとかの情報を提供しているというふうに伺っています。
代理人 信者である人を拉致・監禁してマンションとかの一定の場所から出られないような状態にして、そこで繰り返しあなたの信仰している教義は誤っている、あるいはあなた自体がとんでもない行動をしているんだという形で、繰り返し説得を行っている人たちということではないんでしょうか。
西田 それは統一協会のがわの見解としてそういうふうに主張していることは知っていますし、そういう内部資料というんでしょうか、統一協会のほうが出している資料を読んだこともあります。しかし、彼ら(脱会カウンセラー)がそれをやっているという現場を私自身は見たことはありませんし、ただお話合いをしているシーンは見たことはありますよ。捕まえてきてどうとかというほど強制的なものかどうかということは私は余り知りません。
代理人 あなたは以前札幌地裁で証言されたことがありますね
西田 ええ、随分前ですね。
代理人 そのときに、静岡のほうで旅館かホテルのようなところで信者の人がいろいろ説得を受けている場面にあなたも行ったことがあった、ということを述べておられますよね。
西田 それは今説明したとおり観察したことはあります。
代理人 その人は、ほかの人たちによってそこから自由に出ることはできないような状態に置かれて説得を受けていると、あなたには見えませんでしたか。
西田 少なくとも縄で縛るとか物理的に縛られているとは思えませんね。ただ本人を逃がさないように、たくさんの人がいたかもしれませんね。それは言えると思います。しかし、聞いていたところでは、逃げるからいるんだという表現をしていました。
この証言録からわかる通り、保護か拉致監禁かの用語問題はともかく西田氏は信者が逃げられないような場所で説得されているのを目撃しているのだ。
統一教会から脱会させる過程で、保護(拉致監禁)と、逃げられない場所での説得(監禁下での説得)という行為が媒介になったからこそ、子どもがメデタク統一教会をやめたというのに、親子関係は元に戻らないのだ。
西田氏は『マインド・コントロールとは何か』を執筆するために、保護説得を受けた多くの元信者にインタビューしている。彼は脱会後の親子関係も質問したうえで、前述の「親子関係の修復は4、5年かかる」と結論を下しているのだ。
西田氏のいう前述の「多くの元信者は新しい関係を模索しようとする」という内実は、心の通わない表面的で当たり障りのない親子関係の模索ということだろう。
子どもが脱会したときには大喜びしたにもかかわらず、子どもは一人暮らしをしたいというし、親子関係はしっくりしない。同じ親の立場からすれば、ため息が出るような話だ。何のための脱会説得だったのか。悲劇としか表現できない。
統一教会を脱会した元信者でさえ親子関係がうまくいかないのであれば、監禁場所から何らかの方法(脱出、偽装脱会)で解放された現役信者の親子関係は、何をかいわんやだろう。
「山口コラム(7)」のコメント欄に投稿した「たこ八」さんの文章を読んで欲しい。
「一筆一論(2)」で書いた門田家の家庭は、娘が統一教会員のままでも家族が再生した希有な事例だ。
西田氏だけをあげつらうわけではないが、統一教会信者への脱会説得の実態を知りながら、口をつぐむ学者、研究者は不作為の罪に問われても当然だと思う。
沈黙は、学会や“反カルト業界”では「金」であっても、社会的にみれば「罪」なのである。
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- [2009/03/08 10:52]
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コメント
元々崩壊してるのですよ!親御さん
追記
マインドコントロールの嘘と脱会屋の正体
参考になります
聴くところによると、これからは統一教会という名前を表に出して伝道していくということですが・・・
先が思いやられる気がします。
ありがとうございました
大和櫻さんへ
家族の解体
実に、不可解なことがある。
門田家の明るい話と打って変わって、今度は少々暗い話である。
牧師など脱会説得者たちは「統一教会問題は家族の問題だ」という。どういう意味か正確にはわかないが、子どもが統一教会に入信したことによって家族の関係が悪化した。だから、統一教会問題とは畢竟、家族の問題という意味だろう。
そうだとすると、理解不能なことが生じる。
もし家族の問題だとしたら、子どもが脱会すればメデタシメデタシとなって、子どもが入信する以前の家庭の状態に戻り、家族関係は良くなるはずである。
父親がアル中の場合、父親が断酒すればアル中前の家庭に戻り、家族関係は良くなるし、多重債務に陥っている家庭はサラ金地獄から抜け出れば、平穏さを取り戻す。
問題が生じた場合、問題の原因を取り除けば、問題は解決する。
これは、論理的必然であり、私たちが日常的に経験していることでもある。
ところが、こと統一教会の家族問題はそうではないのだ。
静岡県立大学准教授の西田公昭氏(日本脱カルト協会理事)は『マインド・コントロールとは何か』(紀伊国屋書店)で、次のように書いている。
「(脱会後)特に親子関係は引き続き解決を見ないのが通常である。多くの元信者は親との同居を好まず、新しい親子関係を模索しようとする。両者の関係の進展は急がず、4、5年といったゆっくりした時間の中で修復、改善するのが望ましいと思われる」
反“カルト”の立場を鮮明にしている学者の言葉ゆえ、嘘や誇張はないだろう。
実際、私も取材した限りでの話だが、統一教会をやめたにもかかわらず、親子関係や兄弟姉妹関係が元通りに戻ったというケースはゼロであった。唯一の例外は、ルポと『我らの不快な隣人』の主人公、麻子の家庭だけである。
(『我らの不快な隣人』216?220頁と153?155頁参照)
もしブログ読者に信者家族の方がいらっしゃったら、どうかじっくり考えてみてください。
子どもが統一教会をやめたのに、どうして「親子関係は引き続き解決を見ない」のか、どうして「4、5年」もかかるのか、なぜあえて「修復、改善」といった作業が必要なのか、と。
問題が生じた場合、問題の原因を取り除けば、問題は解決する。
それなのに、西田氏は問題の原因を取り除いたにもかかわらず、問題(親子問題)は解決しないという。
どういうわけなのか。
唯一考えられるのは、原因を取り除く過程で新たな問題が生じたということだ。
新たに発生した問題とは何か。それは、はっきりしている。
統一教会から脱会させる過程で、家族が子どもを拉致監禁し、監禁下で牧師の説得を受けさせるという、子どもの心に激しい衝撃を与えてしまったからだ。信頼していた親や兄弟から監禁されたショックは大きく、そのため脱会しても、傷が癒えるまでには4、5年はかかるということなのである。
西田氏は前掲の自著で、事実を指摘するだけにとどめ、なぜ子どもが脱会したのに親子関係が引き続きうまくいかないのか、その理由について言及していない。
西田氏は明らかに、「新たに発生した問題」のことは知っていた。
なぜなら、彼は監禁部屋で保護説得の様子を観察したことがあるからだ。ちなみに、反統一教会が好んで使う<保護>とは、ふつうの日本語でいえば<拉致監禁>である。
(保護か拉致監禁かの用語法については、あらためて一筆一論で書くつもりだ)
名古屋・青春を返せ裁判での証言録(99年7月)を引用しておく。
研究者仲間も知らないであろう本邦初公開の文章である。
統一教会側の代理人の質問は一部わかりすく修正したが、西田氏の証言はそのままである。
代理人 脱会カウンセラーの人たちがどんなことをしているのか、あなたは知っていますか。
西田 それは人によって全く同じとは言えないでしょうが、基本的に教義の誤りについてとかマインド・コントロールについてとかの情報を提供しているというふうに伺っています。
代理人 信者である人を拉致・監禁してマンションとかの一定の場所から出られないような状態にして、そこで繰り返しあなたの信仰している教義は誤っている、あるいはあなた自体がとんでもない行動をしているんだという形で、繰り返し説得を行っている人たちということではないんでしょうか。
西田 それは統一協会のがわの見解としてそういうふうに主張していることは知っていますし、そういう内部資料というんでしょうか、統一協会のほうが出している資料を読んだこともあります。しかし、彼ら(脱会カウンセラー)がそれをやっているという現場を私自身は見たことはありませんし、ただお話合いをしているシーンは見たことはありますよ。捕まえてきてどうとかというほど強制的なものかどうかということは私は余り知りません。
代理人 あなたは以前札幌地裁で証言されたことがありますね
西田 ええ、随分前ですね。
代理人 そのときに、静岡のほうで旅館かホテルのようなところで信者の人がいろいろ説得を受けている場面にあなたも行ったことがあった、ということを述べておられますよね。
西田 それは今説明したとおり観察したことはあります。
代理人 その人は、ほかの人たちによってそこから自由に出ることはできないような状態に置かれて説得を受けていると、あなたには見えませんでしたか。
西田 少なくとも縄で縛るとか物理的に縛られているとは思えませんね。ただ本人を逃がさないように、たくさんの人がいたかもしれませんね。それは言えると思います。しかし、聞いていたところでは、逃げるからいるんだという表現をしていました。
この証言録からわかる通り、保護か拉致監禁かの用語問題はともかく西田氏は信者が逃げられないような場所で説得されているのを目撃しているのだ。
統一教会から脱会させる過程で、保護(拉致監禁)と、逃げられない場所での説得(監禁下での説得)という行為が媒介になったからこそ、子どもがメデタク統一教会をやめたというのに、親子関係は元に戻らないのだ。
西田氏は『マインド・コントロールとは何か』を執筆するために、保護説得を受けた多くの元信者にインタビューしている。彼は脱会後の親子関係も質問したうえで、前述の「親子関係の修復は4、5年かかる」と結論を下しているのだ。
西田氏のいう前述の「多くの元信者は新しい関係を模索しようとする」という内実は、心の通わない表面的で当たり障りのない親子関係の模索ということだろう。
子どもが脱会したときには大喜びしたにもかかわらず、子どもは一人暮らしをしたいというし、親子関係はしっくりしない。同じ親の立場からすれば、ため息が出るような話だ。何のための脱会説得だったのか。悲劇としか表現できない。
統一教会を脱会した元信者でさえ親子関係がうまくいかないのであれば、監禁場所から何らかの方法(脱出、偽装脱会)で解放された現役信者の親子関係は、何をかいわんやだろう。
「山口コラム(7)」のコメント欄に投稿した「たこ八」さんの文章を読んで欲しい。
「一筆一論(2)」で書いた門田家の家庭は、娘が統一教会員のままでも家族が再生した希有な事例だ。
西田氏だけをあげつらうわけではないが、統一教会信者への脱会説得の実態を知りながら、口をつぐむ学者、研究者は不作為の罪に問われても当然だと思う。
沈黙は、学会や“反カルト業界”では「金」であっても、社会的にみれば「罪」なのである。
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