ストーカー裁判-弁護人の最終陳述(中)
ストーカー事件の真相(9)
“カルト”とか統一教会とかは無縁の知人(裁判体験者)から電話をもらった。
「弁護士さんの文章に驚いたわ。平易で、とても読みやすく、わかやすかった。あのような文章が書ける弁護士さんって、そういないと思う」
最終陳述を続ける。今回、アップしたところは青字部分である。
一部をマスキング、イニシャルにした。(括弧)内の出典は緑字にした。
下線、ゴチック、*注は私。
最終弁論
<総論>
1.公訴事実記載の目的について
2.公訴事実記載の「かっての婚約者」について
3・公訴事実記載の各行為について
4.ストーカー行為の故意の欠如
5.本件はストーカー規制法を適用すべき事案ではない
<本件は恋愛感情充足目的ではない>
1.序
2.K氏が08年1月1日に行方不明になるまでの経緯
3.K氏が行方不明になって以降、公訴事実記載の日時に至るまでの経緯
4.小括-公訴事実の各日時当時における被告人の目的
<公訴事実記載の「かつての婚約者」について>
1.被告人に対する婚約破棄の意思表示の不到達
2.K氏との婚約解消手続きが統一教会内において未了であること
3.まとめ
<公訴事実1ないし5の各行為について>
1.公訴事実1ないし4における被告人の認識及び行動
2.公訴事実5の日時・場所における被告人の認識及び行動
3.本件各行為が恋愛感情を充足し得る態様ではないこと
<被告人にはストーカー行為の故意がない>
<本件はストーカー規制法を適用すべき事案ではない>
1.ストーカー規制法の適用対象
2.本件事案の特殊性
<K証言について>
1.K証言の弾劾
2.K氏がストーカー市街を訴えることに対する疑問
<K氏の母親証言の弾劾>
<宮村氏証言の弾劾>
<乙第3号証の信用性について>
1.序
2.本件調書の作成経緯
3.小括
<結論>
<公訴事実記載の「かつての婚約者」について>
1 被告人に対する婚約破棄の意思表示の不到達
法律上,隔地者(*法律用語で、「意思表示が相手方に到達するまでに時間を要する関係にある人) に対する意思表示は,その通知が相手方に到達しなければ, 効力が発生しない以上(民法97条1項),K氏の婚約破棄の意思表示は,仮にそれが真意によるものであったとしても,被告人に到達しなければ,効力を生じない。
本件の場合,K氏の脱会通知書は,統一教会本部に送られたのであって,被告人の住所宛てに送られていない以上,被告人に到達したとは言えない。
また,K氏の平成21年12月28日付け手紙も,これが入っていた荷物を被告人が受領したのは,2010年(平成20年)8月頃であるから,この時点で初めて被告人に到達したと言える。
そうすると,2010年6月の時点,すなわち公訴事実1,2の当時,被告人は,K氏の前記手紙の存在すら知らなかった以上,K氏の婚約破棄の意思表示は被告人に到達しておらず,被告人とK氏の婚約が破棄されたとは言えない。
また,前記<本件は恋愛感情充足目的ではない>の3(6)で述べた理由により,被告人は,K氏の前記手紙が,K氏の本心を表したものか疑わしいと考えていたので,同手紙を受領した後も,K氏本人に直接意思確認をするまでは,K氏との婚約関係が破棄されたとは考えていなかった(乙2の2頁)。
したがって,公訴事実3,4,5の当時においても,被告人の認識としては,K氏は「婚約者」であったと言える。
2 K氏との祝福解消手続きが統一教会内において未了であること
公訴事実の各日時当時,統一教会内において,被告人とK氏の祝福結婚は,未だ解消されていなかった。
その理由は,本来,祝福結婚の解消は,合同結婚式を受けた当事者双方の合意に基づいて,本人らが所属教会において手続きをするものであるところ(弁16),本件の場合,K氏から統一教会本部宛てに脱会通知書が送られたものの,K氏の失踪経緯や強制改宗屋の宮村峻氏が関与している事実からみて,拉致監禁を手段とする棄教強制が強く疑われ,偽装脱会または脱会書の偽造等の可能性もあったため,教会の担当者(家庭部長)または少なくとも被告人がK氏本人に直接意思確認をする必要があったが,それができなかったからである(弁15,山川証言3頁)。
3 このように,公訴事実1,2の各日時当時,K氏の祝福破棄の意思表示は被告人に到達すらしておらず,到達後も,被告人は,合理的理由に基づき,K氏の婚約破棄を本心とは認識していなかった。
また,公訴事実の各日時当時,被告人とK氏の祝福結婚は解消されていなかったのであるから,公訴事実の各日時当時,被告人にとって,K氏は「かつての婚約者」ではなく「婚約者」であったといえる。
<公訴事実1ないし5の各行為について>
1 公訴事実1ないし4における被告人の認識及び行動
(1)K氏の父親の車にGPS付き携帯電話を取り付けた理由
被告人は,K氏の父親が実家に住んでいたため,同人の外出先を追えば,K氏の居場所に辿り着くのではないかと考えた(乙6の4頁,乙8の5頁,乙10の2頁)。
そして,K氏の父親の移動を把握する方法として,GPS機能付き携帯電話を,同人の父親の車に取り付けることを思いついた。
GPSを車に取り付けるという発想は,以前,K氏にプレゼントした携帯電話にGPS機能がついていれば,K氏の居場所がすぐにわかったのにという思いがあったこと(乙10の1頁,被告人第6回41頁),及び被告人がインターネットで見た浮気調査マニュアルからヒントを得たものである(被告人第6回41頁)。
なお,被告人が使用したGPSは,電波などの具合で,通常,30~50メートルの誤差を含む範囲内でしか位置を把握することができず,具体的な場所を特定するには,当該GPSの情報を手がかりに,実際にその現場に行って,勘などで捜す必要があった(甲25,乙10の2~3頁,被告人第6回43頁,被告人第9回)。
(2)意思確認の方法についての被告人の考え
前記<本件は恋愛感情充足目的ではない>の4のとおり,被告人はK氏に会って意思確認をしたいと考えたが,そのためには,まず,K氏の居場所を見つけ,その上で,K氏と会い,同氏のデリケートな心理状態を考慮した上で,慎重に意思確認をする必要があると考えた(被告人第6回28,43~44頁)。
なお,被告人は,まずはK氏の居場所を見つけることが先決であると考え,居場所を見つけた後の意思確認の方法について具体的には考えていなかった(乙14の3頁)。
(3)公訴事実1ないし4における被告人の認識及び行動
ア ストーカー規制法における「待ち伏せ」の意義
一般に「待ち伏せ」とは,①相手方が来る又は来るかもしれないと認識もしくは予想して,②特定の場所において隠れて待つことを意味するが,ストーカー規制法における「待ち伏せ」は,それが,恋愛感情等を表明する行為として行われるという性質上,③相手方に対して話しかける等,自らの気持ちを表明する意思(以下「話しかける意思」という)が必要と解すべきである。
以下,公訴事実1ないし5における被告人の認識及び行動が,前記①ないし③の要件を満たす「待ち伏せ」に当たるか否かについて検討する。
イ 公訴事実1について
(ア)公訴事実1の現場周辺に行った目的
被告人は,平成22年6月8日,K氏の父親の車が,東京都新宿区新宿1丁目35番NPC新宿第2パーキング周辺に停車中と推測されるGPSの発信記録があったので,その位置を確認し,その周辺にK氏が住むマンション等があるかどうかを調べるため(乙10の3頁),同パーキング周辺の現場に行こうと考えた。
具体的には,被告人の携帯のGPSの画面上には,K氏の父親の車がダイカンプラザまたはその周辺にあるという発信記録が表示されていたので(被告人第8回の35~36頁,同尋問調書添付の図面,第9回,同尋問調書添付の写真),被告人は,K氏の父親が新宿に行くのは,ダイカンプラザまたはその周辺のマンションにK氏が住んでいるからであろうと推測した(被告人第7回29頁,被告人第8回の35頁,37頁)。
ただ,前記(1)のとおり,被告人が使用していた携帯のGPSは,実際のGPS発信機の場所と異なる場所を表示することが多いため,現場に行ってみなければ,その正確な位置を把握できず,また,被告人が見ていたGPSの地図は,地図上に具体的なビル名等が表示されず,住居表示も「新宿1丁目あたり」という曖昧な表示しかなかった(被告人第8回38頁,同尋問調書添付の図面,被告人第9回,同尋問調書添付の写真)。
そのため,被告人が公訴事実1の現場周辺に行った直接の目的は,GPS発信記録があった現場に行って,K氏の父親の車がどこに止まっているのか,その位置を正確に確認するためであった(被告人第9回)。
(イ)公訴事実1の現場周辺に行ってからの被告人の認識及び行動
被告人が,前記GPS発信のあった現場周辺に行ってみると,公訴事実1のパーキングにK氏の父親の車が停まっていることが,その時初めて分かった(被告人第8回38頁)。
ただ,同パーキングの隣にダイカンプラザのマンションがあったので,被告人の認識としては,前記(ア)同様,K氏の父親がダイカンプラザにいるK氏に会うために,同パーキングに車を止めているのではないかと推測した(被告人第8回40頁)。
そして,被告人は,同パーキングで車を確認した後,近くのガストで食事をし,同パーキングに戻ったが(被告人第8回41頁,同尋問調書添付の図面,被告人第9回,同尋問調書添付の写真3),同パーキングに戻る途中,左側にダイカンプラザのマンションがあったので,K氏の居場所を探すため,同マンションの玄関に入り「K」という名の表札を探した(被告人第8回41~42頁)。
そしてその後,被告人が同パーキングの角に来たとき,K氏の父親が同パーキングの精算機で精算をしている姿を目撃したので(被告人第9回,同尋問調書添付の写真4,現場見取り図),被告人は見つかってはまずいと思い,道路を渡った建物の陰に隠れて見ていた。すると,K氏の父親が駐車した車の方に戻っていったので,被告人は車の中に誰が乗っているのかを確認するため精算機の方に行った(被告人第9回)。
そして,被告人は,精算機の前に立って同パーキング内に停まっている車の方を見ていた。
このとき被告人が立っていた精算機の位置は,被告人第6回尋問調書添付の写真1のとおりであり(被告人第6回45頁),被告人が立っていた位置は,同写真2のとおりである。
また,精算機の前に立った被告人の目線から見た視界は,同写真3のとおりであるところ,被告人の前には,清算機及び半透明の白い壁があったので(被告人第6回45頁),被告人からは,K氏の父親の車に誰が乗り込んだかまでは見えず,また同車が動き出すところも見えなかった。
その後,K氏の父親の車が被告人のいる精算機の横を通り過ぎたので,被告人は,車の中に乗っている人を確認するため,上体を少し車の方に向けて目で車を追うように注視した(被告人第6回調書45~46頁)。
このときの被告人と車の位置関係は,被告人第6回調書添付の写真4,5,7のとおりであり,被告人の目線で車道に出た車を見た視界が,同写真6である(被告人第6回調書45~46頁)。
このとき被告人は,車内に乗っているK氏の母親は見たが,K氏本人は乗っていなかったと供述している(被告人第9回)。
当該被告人の供述は,以下に述べるとおり,極めて合理的である。すなわち,このとき,被告人の母親(*ママ、K氏の母親のことだろう)は,車内の助手席に座っていたのに対し,K氏は助手席のすぐ後ろの後部座席に座っていたところ(K第2回22頁),甲第21号証添付の写真2を見れば明らかなとおり,被告人の父親(*ママ、K氏の父親)の車は,車外から,助手席は比較的見えやすいのに対し,後部座席は真っ暗で車内が見えないようになっていたため,被告人から見ると,助手席に乗っていたK氏の母親は見えたが,後部座席には誰が乗っているのか全く分からなかったのである(乙11の2頁,被告人第6回47~48頁)。
また,当時の被告人の認識としては,K氏の父親の車が停まっていたパーキング周辺のダイカンプラザ等のマンションに,K氏が住んでいると思っていたため,同車の中にK氏が乗っていることは,全く認識も予想もしていなかった(被告人第6回47頁,被告人第9回)。
(ウ) 「待ち伏せ」に当たらないこと* 「検察の論告」の注で書いたが、宇佐美氏は調査会社のアドバイス「被害者との接触を試み本人からの直接の意思確認を行う為には、居住先への直接アプローヂよりも、外出している際を見計らってアプローチを行い、冷静に考えられる環境下で、率直な状態での意思確認を行う事が望ましい」に従って行動している。すなわち、K氏の居住先(ダイカンプラザ等)を見つけ、そこからK氏が単独で外出するのを見計らって、意思確認をする-というものである。
検察は公訴事実1~4で、宇佐美氏がK氏に声をかけなかったことをしきりに問題にしているが、両親などがそばにいるときに話しかけるのは、トラブルが生じる可能性があり(たとえば警察沙汰)、「率直な状態での意思確認」とはならない。それゆえ話しかけなかったのである。
このように,被告人が,精算機の前で,パーキングから出て行くK氏の父親の車を注視した行為は,単に,車内に誰が乗っているのかを確認したいという思いからであって,車内の後部座席に乗っていたK氏の姿を見ていないばかりか,あらかじめ,車内にK氏が乗っていることを認識または予想していたわけでもない以上,かかる被告人の行為は,前記アにおいて定義した「待ち伏せ」の要件のうち①及び③の要件を欠くため,K氏を待ち伏せしたとは言えない。
一方,K氏も,本法廷において,公訴事実1の当時,車内にいたK氏から見た被告人の様子について,前記被告人供述と同様,このとき被告人は,精算機の前に立ったまま「曲がる車を目で追うような感じ」で,車の動きに合わせ,顔を車に向けて目で追うように車を見ていた旨証言しており(K第2回23~24頁),同証言は,このときの被告人が,あくまで車を注視していたに過ぎず,車内にいるK氏には全く気がついていなかったという事実を裏付けている。
したがって,被告人が公訴事実1の日時及び場所においてK氏を待ち伏せした事実は,存在しない。
(エ)K氏が新宿の弁護士事務所に通っていることの認識の欠如
被告人は,2010年6月4日,中務氏から山口弁護士の事務所の住所及び電話番号等が記載された携帯メールを受け取った(甲58の番号98のメール)。
これは,2010年3月頃,被告人が中務氏から,電話で,K氏が山口弁護士に依頼して統一教会に対する返金請求を行っていることを聞いた際,参考程度に聞いておこう位の認識で訊いたところ,それに対する中務氏の返事が,2010年6月4日になって来たものである(被告人第9回)。
具体的には,同年3月頃,被告人は,川崎元牧師を訪れてK氏との仲介を要請するなど,第三者を通じてK氏に会うことを考えており,山口弁護士についても,仲介者になってもらうのはどうかという発想から,確定的な考えというよりは,なんとなく訊いてみたに過ぎなかったのである(被告人第9回)。
ところが,被告人は,同年4月頃以降,前記のような第三者に仲介を頼む方法は,時間と労力がかかり,また人と会うことによるストレスもあるため,それよりは,GPSによってK氏の父親の車の移動先からK氏の居場所を見つけて,K氏に会う方が,はるかに効率的かつストレスもないと考えるようになり,それに伴い,山口弁護士の事務所の住所等に対する関心がなくなった(被告人第9回)。
そして,被告人が前記メールを受け取った同年6月4日当時というのは,まさに,被告人がGPSを使ってK氏の居場所を探そうとしていた時期であり,その頃はもはや,山口弁護士に仲介を頼むつもりなどなく,同弁護士の事務所住所や電話番号などには全く関心がなかった(被告人第9回)。
そしてむしろ,被告人は,同年5月頃より,1回の機会にGPSの発信記録が新宿1丁目のダイカンプラザ周辺に連続して出ていたことから,その周辺にK氏が住んでいるのではないかと思っており,前記メールを受け取った同年6月4日当時も,そのような認識であったので(被告人第9回),前記メールを受け取った後も,同メールに記載された弁護士事務所の住所には関心がなく,当該住所を,すぐに地図などで確認しようなどとは考えもしなかった。
また,6月8日の公訴事実1当時,被告人の見ていた携帯のGPS地図は,ビル名やマンション名が表示されず,住居表示も「新宿1丁目あたり」としか表示されないこと,また地図の画面の大きさは,被告人第9回尋問調書添付の写真①のとおり小さく,また当時,被告人が見たGPS画面に山口弁護士の事務所は入っていなかったことなどから,仮に,同日,被告人が山口弁護士の事務所住所に関心を持っていたとしも,当該GPSの地図上で,同事務所の住所の位置を確認することは物理的に極めて困難であった(被告人第9回)。
以上の理由から,公訴事実1当時の被告人は,K氏の父親の車が停まっていたパーキングと山口弁護士の事務所があるさわだビルとが,距離的に近いことに気がつかなかったため,K氏が同事務所に行っていることも,全く知らなかったのである。
なお,もし仮に,公訴事実1当時,被告人が前記パーキングと弁護士事務所の距離的近さに気がつき,K氏が弁護士事務所に行っていることを認識していたならば,被告人は,公訴事実3の如く,弁護士事務所のあるさわだビルの方に行ったはずであり,また,前記ア(イ)のとおり,ダイカンプラザの玄関に入り「K」の表札を探す行為もしなかったはずであるから,このような被告人の行動からも,当時の被告人の認識が裏付けられる。
*これに付け加えれば、もし宇佐美氏が山口弁護士事務所に関心を寄せていたとしたら、中務氏に聞くことなどせずにネットで所在地を確かめるだろう。「山口広弁護士」で検索をかければ、「東京共同法律事務所」が上位でヒットする。事務所の所在地はものの数秒で確かめることができる。
ウ 公訴事実2について
被告人は,平成22年6月12日,東京都杉並区荻窪4丁目7番20号先路上周辺に,過去のGPSの発信記録が多く出た場所があったので,同場所がどのような場所なのか,またその周辺にK氏が住むアパート等があるかどうかを調べるため,前記地点に行った(乙11の2~3頁,被告人第6回48~49頁)。
このとき被告人は,あくまで過去のGPSの位置情報に基づいて行動しており,当日のGPSの位置情報を確認していなかった(被告人第8回2~5頁,被告人第9回)。
被告人は,この日,電車で荻窪駅まで行き,荻窪駅から徒歩で目的地の×の場所まで向かった。
その具体的な経路は,被告人第6回調書添付の資料1にペンで記入されたとおりである。
またこのとき,被告人が歩いた経路は,同資料2記載のとおり,まず,荻窪高校と保健センターの間の道を右側通行で歩き,突き当たりの角を右折して荻窪高校側の歩道を直進し,その先の角を,目的地の×の方に渡り,その後,荻窪高校と反対側の通りに沿って歩いたというものである(被告人第6回51頁)。
前記経路のうち,被告人が荻窪高校側の歩道を歩いているときの被告人の認識は,GPSの発信記録がよく出ていた前記目的地(×の場所)の周辺に,K氏の父親の車が止まっていないか,または,どんな場所か確認したいという認識であり(被告人第6回52頁),同場所付近を走行している車には関心がなかった(被告人第6回49頁,被告人第8回5頁)。
また,被告人は,前記歩道を歩いて,前記目的地(×の場所)に向かって歩いている間,K氏の父親の車を見たことはなかった(乙11の3頁,被告人第6回49頁)。
一方,K氏は,本法廷において,前記歩道を歩いている被告人を見た旨証言し,それをもって被告人がK氏を待ち伏せしたと述べている。
しかしながら,前記のとおり,当時の被告人は,K氏の父親の車を見ていないだけでなく,付近を走行中の車にも関心がなく,また,K氏の乗った車が被告人の前を通ることも予測していなかった以上,あらかじめ,K氏が公訴事実2の現場周辺に来ることを予測して,そこに行ったものではない。
このような被告人の行為は,前記アにおいて定義した「待ち伏せ」の要件のうち①ないし③の要件をすべて欠くため,K氏を待ち伏せしたとは言えない。
したがって,公訴事実2の日時及び場所において,被告人がK氏を待ち伏せしたという事実は存在しない。
なお,公訴事実2当時においても,前記ア(ウ)で述べたのと同様,被告人は,山口弁護士の事務所の住所には関心がなかったため,中務氏から受け取ったメールに記載された事務所住所を地図で確認することもしておらず,公訴事実1のパーキングとさわだビルの距離的な近さに気がつかなかったので,K氏が山口弁護士の事務所に行くために新宿に行っていることは知らなかった(被告人第9回)。
エ 公訴事実2以後,同3までの被告人の認識
(ア)K氏が新宿の弁護士事務所に行っていることの認識
被告人は,公訴事実1及び2のときまでは,GPSを頼りに,それだけを用いて,K氏の居場所を探そうと考えていたが,公訴事実1,2において,現場周辺を探しても,これといった手がかりが見つからなかったことから,2010年6月中旬頃,ふと中務氏から受け取った同年6月4日のメールを見て,山口弁護士の事務所住所を地図で調べたところ,公訴事実1のパーキングと同事務所が近い距離にあることが分かり,その時初めて,K氏の父親の車が新宿に行くのは,K氏を乗せて山口弁護士の事務所に送り迎えしているからだということが分かった(被告人第9回)。
なお,この点にかかる認識について,被告人は,起訴後に詳細な記憶を述べるに至ったが,それは,もともと,被告人が,前記ア(ウ)及び前記イのとおり,公訴事実1,2の当時,中務氏の前記メールに関心がなかったので,同メールの存在すら忘れていたところ,本法廷における被告人の反対質問において,検察官から同メールを指摘され,ようやく思い出したからであって(被告人第9回),かかる記憶喚起の経緯は,極めて自然かつ合理的であり,信用性が高いというべきである。
(イ)K氏の父親の車の移動経路についての認識
被告人は,公訴事実2以後も,K氏の父親の車が動く月1,2回の機会に,GPSの位置情報を確認し,2010年9月頃までには,同車の移動経路,すなわち,相模原の実家から荻窪に行き,荻窪から新宿に向かい,再び荻窪に戻り,相模原に帰るという移動経路を把握するようになった。
また,前記(ア)のとおり,K氏の父親が新宿に行くのはK氏が弁護士事務所に行くためであると分かったので,K氏の父親が荻窪に行くのは,そこにK氏の居場所があるからではないかと推測するようになった(被告人第8回8~9頁,被告人第9回)。
*それゆえ、公訴事実3以降、K氏と両親は山口弁護士のところに出向いているにもかかわらず(統一教会と山口弁護士は示談交渉中だった)、宇佐美氏は新宿に出向いていない。
オ 公訴事実3について
平成22年9月30日昼過ぎ頃,被告人はK氏の父親につけたGPSが相模原の実家を出発した旨のメールを受信したので,自宅を出て新宿1丁目のさわだビル付近に行った。
このとき,被告人はすでに,K氏の父親がK氏を乗せて新宿1丁目にある弁護士事務所に相談に行っていることを知っていたため,K氏が公訴事実1のパーキングからさわだビルの方に歩いてくるであろうと予測して,さわだビルの近くで待っていた。
なお,このとき,K氏は,車内から,新宿1丁目36番3号所在のグローリービル付近の路上に被告人が立って,車道側を向いて,父親の車を目で追う感じで見ていたと証言している(K第2回33頁)。
しかし,このとき,被告人は,同路上において,K氏の父親の車が通り過ぎるのを見ていない旨供述しており,この点の被告人の認識は,捜査段階から一貫しているため(乙11の3~4頁,被告人第8回10頁),極めて信用性が高いというべきである。
一方,前記K証言は,被告人のその後の行動と矛盾しているため信用できない。すなわち,後述のとおり,このときの被告人は,K氏に見つからないように隠れて行動しており,その点はK氏も供述しているところ(K第2回34頁),もし仮に,前記K証言が真実なら,K氏に見つかったことを認識している被告人が,わざわざ,その後隠れながらK氏に見つからないように行動する必要性など全くない。
被告人がK氏及び両親を最初に見たのは,さわだビルの方に立っているときに,前記3人が公訴事実1のパーキングからさわだビル方向に歩いてくるのを見たときである。
このとき,被告人は,K氏らに見つからないように,さわだビルの建物に隠れながら,K氏らを見ていた。
そしてその後,K氏らが,さわだビルに近づいてきたので,被告人は,さわだビルの向かい側の道路に移動し,K氏らがさわだビルの入り口から中に入っていくのを見ていた(乙11の3~4頁)。
上記のように,被告人がK氏を見ていた目的は,K氏が,両親とどのような雰囲気で,弁護士事務所までの道を歩いて行くのか,その様子を観察したかったからである。
すなわち,荻窪周辺に住んでいるK氏(*前記ウを参照)が,相模原にいる父親の車を使って新宿の弁護士事務所に行くこと自体が極めて不自然であり,しかも,30歳を過ぎた大人であるK氏が,両親と一緒に弁護士事務所に相談に行くこともまた不自然であると感じた被告人は,K氏が偽装脱会をしていて,それを両親や宮村氏から疑われているため,弁護士事務所に行くときも,両親に監視されながら来ているのではないかと推測していたので,実際のK氏及び両親の様子を観察し,その雰囲気などから,前記推測が正しいかどうか確かめたいと思ったのである(被告人第9回)。
そして,被告人が実際に見たK氏は,後ろから両親に監視されているような雰囲気で,両親とは会話をすることもなく,表情も強ばっていたため,ますます,K氏が偽装脱会中であると考えるようになった(被告人第8回12~13頁,第9回)。
そのため,被告人は,あくまでK氏を観察することが目的であり,当初からK氏に話しかけることは,全く考えていなかった。
また,そもそも,被告人は,K氏が両親と一緒にいる状況下では,K氏が本心を述べるとは考えておらず,また,弁護士事務所に向かっている途中であることから,それを遮って話しかけることは,かえって迷惑になるとも考えていたため,いずれにしても,K氏に話しかけるつもりは全くなかったのである(被告人第6回53頁,被告人第8回12~13頁,第9回)。
このような被告人の行為は,前記アにおいて定義した「待ち伏せ」の要件のうち③の要件を欠くため,K氏を待ち伏せしたとは言えない。
したがって,被告人が公訴事実3の日時及び場所においてK氏を待ち伏せした事実は,存在しない。
カ 公訴事実4について
被告人は,平成22年10月13日午前6時25分,GPSのゾーン設定により,K氏の父親の車が相武台団地を出発した旨のメールを受け取り,父親の車がいつもの移動経路で,荻窪,新宿,そしてまた荻窪に戻ることを把握していたので,前記のとおり,K氏の居場所が荻窪周辺にあると思っていた被告人は,K氏の父親の車が,荻窪のどのアパートやマンションに停まるのか確認したいと考えた。
そこで,被告人は,GPSを確認して,K氏の父親の車が荻窪近くに向かっていることを知り,自らもバイクで荻窪に向かった。
また,被告人は,このとき以前にも,荻窪において,GPS記録が,1回の機会に短時間で連続してとれた住宅街の路地があり(被告人第6回54頁,同尋問調書の添付資料3の斜線部分),その周辺にK氏の居場所があると思っていたので(具体的には,被告人第6回の添付資料3の○を付けた3箇所),今回も,K氏の父親の車が,その路地に来ることを予想して,その近辺にバイクを止め,大通りを歩いて前記路地に向かった(乙11の4頁,被告人第6回54頁,第8回15~16頁)。
なお,結果的にK氏の居場所であったフソウハイツは,当時の被告人の認識の中には,全くなかった。なぜなら,フソウハイツは,前記路地沿いに玄関がなく,反対の大通り沿いに玄関があったため(被告人第6回56頁,同尋問調書の添付資料3の×の表示箇所),通常,前記路地からは,家の中に入らないであろうと思ったからである。
すると,被告人は,歩いていた大通りから入った狭い道の向こう側に見えた前記路地に,父親の車が停まり,車からK氏と同人の母親らしき人が降りるのが見えた。このときの被告人の位置は,被告人第6回公判調書の添付資料3の①であり,父親の車が停まっていた位置は,四角で塗りつぶした表示である(被告人第6回56頁)。
その後,被告人は,K氏と母親が,前記大通りに立っている被告人の目から見て左右いずれかの方向に行くものと予測していたため,K氏らがどの建物に入っていくかを見るため,前記狭い路地を,前記添付資料3の②の位置まで歩いていった(被告人第6回57頁)。
ところが,K氏らは,被告人が予測した前記方向へは行かず,意外にも被告人のいる狭い路地の方に入ってきたので,被告人は,見つからないように,慌てて,前記添付資料3の③(■■方の建物の塀の奥)の位置まで行って隠れた(乙11の5頁,被告人第6回57,59~60頁,同第8回17~18頁)。
その後,K氏らは,前記②の位置まで来て,それからフソウハイツの裏口(前記添付資料3の◎の位置)に入っていった(被告人第6回58頁)。一方,被告人は,K氏らが塀の前を通りすぎたので,K氏らがどこに入っていくのかを見るために,再び,前記■■方の塀のところまで戻り,隙間から顔を出して覗いたところ,K氏が向かい側のフソウハイツ荻窪の裏口に入っていく姿が見えたが,そのとき,被告人が足で草を踏んだため,「カサカサ」と音が鳴ってしまった。
その音を聞いたK氏が,被告人の方に顔を向けようとしたので,被告人は,再度,前記■■方の塀の奥の方に半分ぐらい戻って隠れた(被告人第6回60頁,同第8回20頁)。
このとき,被告人は,とっさに体を反対に向けて見られないようにしたので,K氏と目は合っていないし,K氏には気づかれていないだろうと思った(乙11の5頁,被告人第6回60頁,同第8回20頁)。
そして,K氏が,フソウハイツの中に入った後,前記■■方の塀から出て,表の大通りの方へ行った。
以上の被告人の供述は,捜査段階から終始一貫しており,かつ,本法廷において,反対尋問に対しても,極めて具体的かつ詳細に,当時の状況を述べているため,その信用性は極めて高いというべきである。
なお,K氏は,本法廷において,前記草の音がしたときのことについて,振り向いたら,被告人がそこにいて,隣のアパートのブロック塀の隙間から身を乗り出すようにしていた旨証言しているが(K第2回41頁),当該K証言について,被告人は,本法廷において,明確に,「こんな姿勢はしてません」と否定しているだけでなく(被告人第8回19頁,20頁),当時の被告人の認識,すなわち,K氏に見つからないように隠れようとしていたという心理状態とも一致しないため,極めて不合理である。
またそもそも,K氏は,第2回公判添付資料5の写真2について,「この日に私が初めて気づいたときの,私と,彼のいた位置の写真です」としか説明しておらず,被告人が,写真2に写っている男性のように身を乗り出すような姿勢で立っていたとは説明していない。
よって,前記K証言は,信用性がないというべきである。
このように,被告人は,最初からK氏らがフソウハイツまたは前記添付資料3の②の方向に入ってくることを予想して,前記添付資料3の③の位置であらかじめ隠れて待っていたのではなく,予想外に,K氏らが被告人の方に向かってきたため,とっさに見つからないように隠れた場所が,たまたま前記③の場所だったのであり,しかも,その結果,同場所においてK氏を目撃するに至ったに過ぎない。
また,このとき,被告人は,K氏の居場所を探すことだけを考えていたことから話しかける心の準備がなかったこと,及び,被告人が隠れていた場所は,被告人第6回公判尋問調書の添付写真9に写っているとおり(被告人第6回60頁),一般的に話をする場所として適切ではないと思われたことから,K氏に話しかけようとは全く考えていなかった(被告人第6回59頁)。
このような被告人の行為は,前記アにおいて定義した「待ち伏せ」の要件のうち①ないし③の要件をすべて欠くため,K氏を待ち伏せしたとは言えない。
したがって,被告人が公訴事実4の日時及び場所においてK氏を待ち伏せた事実は存在しない。
*位置関係がわからないため、弁護人の陳述を理解することは難しいと思う。写真で説明しておく。(ただし写真の加工技術がないため、わかりにくいかもしれないが)
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上の写真は、陳述書にある「大通り」、旧環状八号線沿いに立地するフソウハイツの正面玄関。
中の写真は、フソウハイツの裏側。私が撮影している地点が陳述書でいう「路地」。また「大通り」に抜ける道路を、陳述書では「狭い路地」と表現している。
宇佐美氏が「狭い路地」にいたところ、父親の車が「路地」に停まった。フソウハイツの玄関は大通りにあるため、まさか狭い路地にやってくるとは思わず、路地の左右どちらかに向うだろうと予測した。
ところが、車から降りたK氏と母親は、驚いたことに、狭い路地に向ってやってきた。そこで宇佐美氏は中の写真の右側にある塀の中にあわてて隠れた。
その後、K氏と母親が写真下の裏口に入っていった。
フソウハイツは面白い造りになっている。K氏たちが居住している1階の部屋だけは、正面玄関から入っても入口のドアがなく、「裏口」が入口となっている。正面玄関の入口の左を駐車場としたため(上の写真)、1階の奥の部屋は狭い路地沿いの、裏口のようなところからしか入ることができない。
それゆえ、父親は車の往来の激しい「大通り」に車を停めず、裏側の路地に車を停めたのであろう。それにそのほうが人目につきにくい。
フソーハイツの構造を把握するのに、かなりの時間を要した。宮村先生はマンション探しの達人である。
2 公訴事実5の日時・場所における被告人の認識及び行動
(1)GPSを使用していないこと
平成22年10月13日以降,K氏の父親の車に取り付けたGPS機能付き携帯電話がK氏らによって発見されて取り外されたので(K第2回44~45頁),それ以降,被告人は,GPSを使用できず,当然ながら,公訴事実5の日時当時,被告人は,GPSを使用していない(乙12の1頁)。
(2)被告人がサウナの出入り口付近の椅子に座った理由
平成22年11月28日午後5時30分頃,被告人は,練馬教会に行った帰りに,なんとなく,同年10月13日に発見したK氏の居場所(フソウハイツ荻窪)が気になって行ってみたくなり,バイクでその場所に行った。
被告人が同場所に着くと,ちょうど,そこに習志野ナンバーの車(トヨタパッソ)がエンジンのかかった状態で停まっていて,同車に,K氏とは容姿の異なる見たことのない女性が乗り込むのを見た(被告人第6回61頁,同第8回23~24頁)。
このとき,被告人は,その車にK氏が乗りこむところを見ておらず,また,夕方で暗かったのでK氏が外出するとは思っていなかったので,車にK氏が乗っているとは思わなかったが(乙12の2頁,被告人第6回62頁,同第8回25頁,同第9回),車に乗り込んだ女性が,K氏の脱会を支援している支援者で,夕方になったので習志野に帰るのではないかと思った。
また,被告人は,それ以前にも,公訴事実4の日時から公訴事実5の日時までの間に1度,K氏の居場所に行ったことがあり,そのときも,表通りの駐車場に前記習志野ナンバーの車が停まっているのを見た(乙12の2頁,被告人第8回23頁)。
そのため,今回も見たその車に乗っている支援者と思われる人物が,どのような人で,どこに行くのか気になり,仮にK氏とは直接関係なくとも,他の拉致監禁事件で苦しんでいる人のために何か役に立つ情報が得られるかもしれないと思い,その車の後をつけることにした(被告人第6回62頁,同第8回25頁)。
すると,その車が,被告人の予想に反し,宮村氏宅の前に停まった。
このとき,被告人は,宮村氏宅前で,誰が車に乗り降りしたか見ておらず,支援者が乗り降りする可能性もあったので,宮村氏が乗ったかどうかも分からなかった(乙12の2~3頁,被告人第9回)。
そこで,被告人は,車に誰が乗っているのか,ますます気になって,さらに同車の後を付けた。
すると,その車は,東京都杉並区桃井1丁目35番9号所在の荻窪ラドン・サウナセンターの駐車場に入った。
そこは,被告人が初めて来た場所であった(被告人第8回26頁)。
被告人は,バイクを同サウナセンターの隣のアパートに停めて,車に誰が乗っていたのかを確認するため,最初は,サウナセンターの外で待っていたが,来なかった。
そこで,外で待つのも寒かったので,サウナセンターの中に入って階段を上って,1回上まで上がったが,お金を払わないと入りにくい状況だったので,一旦降りて,階段途中にあった踊り場付近の椅子に座って,車の中に乗っていた支援者と思われる人物が誰なのかを確認することにした(乙12の3頁,被告人第6回62頁,同第8回26~27頁,同第9回)。
そして,被告人が椅子に座って携帯電話を見ながら待っていると,宮村氏,K氏及びその他被告人の知らない女性2人が階段を上って被告人の前を通り過ぎていった。
このとき,被告人は,そこにまさかK氏が来るとは,全く予想もしていなかったので,内心驚いたが,以前に宮村氏ともみあいになってトラブルになった経験から冷静にしないといけないと思い,平然を装って無視した(被告人第6回62頁,乙12の3頁)。
するとその後,宮村氏と知らない女性が戻ってきて,女性が被告人をストーカー呼ばわりした上,被告人の写真を撮ったが,被告人は,ここで言い争えばトラブルになると思い,ぐっとくる感情をこらえて,平静を保つために携帯をいじる振りをしながら,ひたすら黙って無視していた(乙12の4頁)。
以上の内容に関する被告人の供述は,捜査段階から一貫しており,本法廷においても,具体的かつ詳細に,当時の認識及び行動を述べているため,極めて信用性が高いというべきである。
このように,被告人が前記椅子に座った理由は,前記習志野ナンバーの車に,K氏の脱会を支援した人(支援者)が乗っていると思い,その支援者がどのような人で,またどこに行くのか気になり,追いかけて行った結果,行き着いた場所が,前記サウナセンターであり,その人物の「顔を割るために」,前記椅子に座ったのである(乙12の3頁,被告人第8回27頁)。
このような被告人の行為は,被告人が,前記車にK氏が乗っているとは全く思っておらず,しかも,その車がサウナセンターに行くことすら知らなかった以上,K氏がサウナセンターに来ることを,あらかじめ予想して,サウナセンターの出入り口付近の椅子に座っていたわけではないのであるから,前記1(3)アにおいて定義した「待ち伏せ」の要件のうち①ないし③の要件をすべて欠くため,K氏を待ち伏せしたとは言えない。
したがって,被告人が公訴事実5のサウナセンター出入口付近において,K氏を待ち伏せしたという事実は存在しない。
(3)被告人がサウナの受付付近の椅子に座った理由
被告人は,前記のとおり,サウナセンターの出入口付近にて予想外にもK氏を見かけたが,そのとき,宮村氏とK氏が,お風呂に一緒に来ているということだけでなく,宮村氏が階段を上りきったところで,K氏に耳打ちしている姿を見て,二人が,とても親しい関係にあると感じ,これまでのK氏に対する認識に変化が生じた。
具体的には,それ以前まで,被告人は,K氏が偽装脱会をしている可能性が高いと思っていたが,前記のK氏と宮村氏の姿を見て,以前のK氏とは明らかに違う,すなわち本心から脱会したのではないかという思いが湧いてきたのである。
ただ,被告人としては,はっきりとK氏本人に確認しなければ,真実は分からないと思った(被告人第7回34~35頁)。
そこで,被告人は,せっかくここでK氏の姿を見たのだから,K氏の意思を確認するチャンスだと思い,また,公訴事実4の日時にK氏の居場所を見つけながらも,なかなか意思確認の方法が見つからず悩んでいたところ(被告人第6回61頁,同第7回35頁),サウナという公共施設なら,意思確認に適していると思い,サウナに入ることにした(乙12の4頁,被告人第6回63~64頁)。
その後,被告人は,サウナに宮村氏がいたので,先ほどのK氏と宮村氏の様子から,まずは宮村氏に,K氏と会わせてほしい旨頼むのが筋であろうと思い,宮村氏に話しかけた。
しかし,宮村氏は被告人の話を聞こうともせず,全く相手にしなかった。
そのため,被告人は,これ以上,宮村氏に頼んでも無駄だと思い,先にサウナを出て,受付付近の椅子に座り,K氏が出てくるのを待つことにした(乙12の4~5頁,被告人第6回63頁,同第7回35頁)。
このとき,被告人が座っていた前記場所は,一般のサウナ客が待ち合わせをする場所であり(被告人第6回64頁),受付には,サウナセンターの番頭がいた(宮村証言29頁)。
そして,被告人は,この番頭であるサウナセンターの店主に「ここで待たせてほしい。」と述べて,同店主の了解を得た上で待っていた(甲7の2枚目)。
その後しばらくして,K氏がサウナから出てきたので,被告人は思い切って,「お久しぶり!」と声をかけた。
ところが,K氏は,強い口調で感情的に,「私はすごく傷ついたんだから。」とか「まだあの団体にいるんでしょう。」などと述べ,まともに会話ができる様子ではなかった。
そのうち,宮村氏や他の女性がサウナから出てきて,宮村氏が「110番通報しろ。」と言うと,すかさずK氏が他の一緒に来た女性から携帯電話を借りて110通報をし始めた(甲7,被告人第6回64~66頁)。
被告人は,K氏が,あまりに感情的になって被告人に対してきたので,何を話すべきか言葉も出てこなくなり,また,宮村氏の指示に従って110番通報するK氏の態度を見て,もはや脱会や祝福破棄が本心かどうかについて,改めて意思確認するまでもなく,K氏の人格が,以前被告人と交際していた当時とは全く変わってしまったと感じ,とても衝撃を受け,内心「もうだめだ。Kさんは変わってしまった」と思った。
そして,K氏に意思確認をする必要はないと考え,その場を立ち去った(乙12の5~6頁,被告人第6回66~67頁)。
以上の内容に関する被告人の供述は,捜査段階から一貫しており,本法廷においても,具体的かつ詳細に,当時の認識及び行動を述べているので,極めて信用性が高いというべきである。
このように,被告人がK氏を待っていた場所は,前記のとおり,本来,一般の客が待ち合わせに使う場所であり,しかも,K氏自身が作成した甲7の書面に記載されたとおり,被告人は,サウナセンターの店主に「ここで待たせてほしい」旨述べ,店主の了解を得た上で待っていたのであるから,このような開かれた場所において,かつ当該場所の管理権者である店主の了解を得た上で待つ行為は,文字通り,単に「待っていた」というだけに過ぎず,かかる被告人の行為は,前記1(3)アにおいて定義した「待ち伏せ」の要件のうち②の要件を欠くため,K氏を待ち伏せしたとは言えない。
したがって,被告人が公訴事実5のサウナセンター内受付付近において,K氏を待ち伏せしたという事実は存在しない。
3 本件各行為が恋愛感情を充足し得る態様ではないこと
公訴事実1ないし5の各行為の目的については,前記<本件は恋愛感情充足が目的ではない>で述べたとおり,K氏本人に会って,直接,被告人との結婚について意思を確認するためであり,その前提として,まずは,K氏の居場所を特定し,K氏の置かれた状況を把握するためであったと言えるが,これらの各行為が,恋愛感情を充足する目的でなかったことは,以下に述べるとおり,被告人の本件各行為の具体的態様に鑑みても,明らかである。
すなわち,まず,公訴事実1の行為は,パーキングの清算機の前に立って,K氏の父親の車を注視する行為であるところ,このような行為によっては,およそ恋愛感情を充足することなど不可能である。
なぜなら,仮に,被告人が,車内にK氏が乗っているのを認識また予想していたとしても,清算機の横を通り過ぎるわずか一瞬の間,K氏を見たところで,それによって被告人のK氏に対する恋愛感情等が充足されることなど現実的にあり得ないからである。
また,公訴事実2の行為も,被告人が荻窪高校周辺の道路を歩いているときに,仮にK氏の父親の車が通り過ぎて行くのを見たとしても,それによって被告人のK氏に対する恋愛感情等が充足されることなどあり得ない。
また,公訴事実3の行為も,被告人が,K氏が弁護士事務所に向かうところを見たところで,被告人の恋愛感情等が充足されることなどあり得ない。
また,公訴事実4の行為も,K氏がアパートの裏口から入るところを見たところで,被告人の恋愛感情等が充足されることなどあり得ない。
また,被告人は,公訴事実4においてK氏の居場所を見つけたにもかかわらず,公訴事実5までの間,同居場所に行き,K氏に対して,恋愛感情等を表明したり,手紙を渡したり,同居場所の周辺に待機して,K氏が出てくるのを待ったりして,交際または復縁を要求するなどの行為を一切していない。
仮に,被告人が恋愛感情を充足する目的で,K氏の居場所を探していたのであれば,公訴事実4以後,前記のような行為をしたはずである。
また,公訴事実5の行為も,出入り口付近の椅子に座って,K氏が宮村氏及び支援者らと一緒に,階段を上っていく姿を見たところで,被告人の恋愛感情等が充足されることなどあり得ないし,受付付近においても,被告人はK氏との会話において,復縁を迫ったり結婚を求めたりする言葉は,一切述べておらず,恋愛感情を充足させるような言葉は何一つなかった。
以上,被告人の本件各行為を具体的に見ても,これらの行為が,恋愛感情が充足し得る態様の行為ではなく,また,恋愛感情充足の目的があれば,通常行うはずの行為を行っていないことが,容易に分かる。
したがって,被告人の具体的な各行為の態様からも,被告人が公訴事実の当時,恋愛感情を充足する目的を有していなかったことは,明らかである。
<被告人にはストーカー行為の故意がない>
1 ストーカー規制法第2条第2項によれば,「待ち伏せ」を反復して行うストーカー行為の場合,当該「待ち伏せ」行為が,身体の安全,住居等の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限って,ストーカー行為に当たると定義されている。
2 本件の場合,被告人は,公訴事実5において初めて,K氏の婚約破棄の意思を確認するに至ったが,それまではむしろ,K氏が偽装脱会をしていると思っていたので,GPSを車に付けてK氏の居場所を探すことについては,後にK氏から「私のことを捜してくれた」と喜んでもらえる,すなわち,K氏の承諾を得られると思った旨供述している(被告人第9回)。
とすれば,仮に,公訴事実1ないし5における被告人の各行為が「待ち伏せ」に該当するとしても,それは,被告人としてみれば,K氏が喜んでくれる,または少なくとも,K氏の承諾を得られると思っていた以上,被告人の主観においては,これら各行為が,K氏の身体の安全,住居等の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法であることについての認識認容がなかったということになる。
したがって,被告人にはストーカー行為の故意がなかったと言うべきである。
- [2011/12/14 18:21]
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不思議な事件
婚約してこれから幸せな家庭を築こうとしていた二人。
しかし、何を考えたのか片方の両親が突然娘を隠してしまい脱会屋に献上してしまった。そして、そこで何があったのか突然心変わりしてしまった婚約者。これはここにアップされた内容だけではどうにも理解できないことが多い。
被害者、そして被害者の両親が何故そのような常識では考えられないことをしたのかもっと真相を明らかにしてほしいと思います。
どなたかアップして
検察と弁護士と裁判官のやりとりが載っているそうですが、
どなたかアップしてくれませかか。
これが裁判なの? という記事だそうですが・・・。
Re: 不思議な事件
>被害者、そして被害者の両親が何故そのような常識では考えられないことをしたのか
おっしゃる通り、多くの人にとっても謎の部分です。
宮村氏に限らず脱会説得家は、信者家族に頼まれたからといって、すぐに脱会説得を始めるわけではありません。
長期間にわたる勉強会を開き、信者家族が「保護(拉致監禁)説得しかない」と確信するようになってから、はじめて脱会説得がスタートします。
宮村氏のやり方は、この勉強会の期間が他と比べ相当長期にわたるというのが特徴です。
勉強会で「保護説得」にたんに納得しただけで実行に移すことはなく、これまでの家族のあり方、親のこれまでの子育てを自己否定し、「子どもを救出するためにはすべてを犠牲にする」という境地になって初めて行われる。
角度を変えて言えば、信者家族が宮村氏を崇拝するようになって、初めて実行に移されます。
家族が自分のことを崇拝しているかどうかは、家族の目つき、態度でわかります。
このため数年間勉強会に通っているのに、いまだ実行に移されない家族もいます。
宮村氏の勉強会の内容はこれまで外に漏れたことはありません。それほど信者家族は宮村氏を絶対の存在だと思っているからです。
偽装脱会で監禁から逃れた信者が、その後、親と日常会話ができるまでに修復しても、親は子どもに宮村氏のやり方を決して漏らしません。
こうしたことから、私は宮村氏と信者家族との関係を、宮村教祖とその信徒たちと表現しています。
統一教会の熱心な信者であっても、組織への不満は口にします。しかし、宮村教の信徒たちは決して宮村氏への不満は口にしません。
それほど強固な“宗教組織”になっているということだと考えています。
参考サイトはhttp://antihogosettoku.blog111.fc2.com/blog-entry-58.html
Re: どなたかアップして
http://kidnapping.jp/
ハーレムに光
それゆえ、父親は車の往来の激しい「大通り」に車を停めず、裏側の路地に車を停めたのであろう。それにそのほうが人目につきにくい。
フソーハイツの構造を把握するのに、かなりの時間を要した。宮村先生はマンション探しの達人である>
K氏たちが囲われているハーレム。元信者、監禁リハビリ中の人々が宮村氏の監視のもとで過ごしているハーレム。
オームのサティアンよろしく、カルト以上にカルト的ですね。
ここを、婚約者の宇佐美さんにかぎつけられたことを知って、宮村氏はさぞかし驚いたことでしょう。
すかさず、婚約者のK氏に「ストーカー被害で訴えろ」と命じても不思議ではありません。
やましさを隠し通して30年。それを隠すのに適した、日常生活には不向きなマンション。いかがわしいですね。
宮村氏および、転身し反対活動をしている元信者らの実生活に光が当てられつつありますね。
石を退けられて、光にさらされ、うろたえるアリ。宮村氏、K氏の尋常ならざるストーカー告訴は、このアリのうろたえに似ています。
考え甘い?
世界日報の記事
http://www.worldtimes.co.jp/special2/ratikankin/111214.html
拉致監禁は本件と関係ないと裁判官までもが突っぱねる。
”まるで、裁判官と検察官が示し合わせているような光景である。”
だろうね…
”弁護人が、宮村氏にその前歴や活動内容を質したのは、Kさんの失跡が強制棄教のためであると考えた宇佐美氏の行動の動機を明らかにするためだった。にもかかわらず、検察側が質問封じの異議を唱え、裁判官は、さほどの考慮の様子も見せないまま検事の主張をうのみにして、弁護人に質問変更を命じる-そんなことが繰り返されたのだ。 ”
あまりにもひど過ぎます。
数匹のアリだったのかぁ!
>石を退けられて、光にさらされ、うろたえるアリ。宮村氏、K氏の尋常ならざるストーカー告訴は、このアリのうろたえに似ています。
鋭い表現ですね。しかも実にうまい表現だと思いました。
続きを書けば、宮村氏は自分の車にもGPSをつけられ、逆上しました。
以下は宮村陳述書です。http://antihogosettoku.blog111.fc2.com/blog-entry-60.html
3.Uの刑事事件で明らかになったGPS発信機をつけて狙った相手をつけ回す手口は、私に対してもなされています。2011年春、私は私の使っている乗用車の車底部にGPSがつけられて作動していることを発見しました。
まさに石が退けられて、日の光を浴びたアリさんになったわけです。
そこで宮村アリ大将はどうしたか。
自分が選挙で応援したアリの代理人こと、有田氏に「お前国会で質問しろ」と言ったということなのでしょう。
http://www12.ocn.ne.jp/~kazoku/index.htm
一番下の方に紹介記事があります。
みんなさんの投稿によって、構図が見えてきました。わからなかったことが符に落ちてきました。とても感謝です。
Re: 世界日報の記事
「裁判の争点とは関係のない尋問だ」を、かなり連発していましたから。
もっとも弁護人の尋問の仕方にも問題がないわけではなく、裁判官の指摘に「尋問の立証趣旨はこうだ」と、間髪を入れずに、明瞭に述べることができていなかった。
しかしそうは言っても、今回の事件は否認事件。検察の起訴に対して無罪を主張するケースはそうそうないこと(圧倒的多くは情状酌量を求めるもの)だし、弁護人が十全なる弁護活動しなければ、無実の人間が犯罪者として裁かれる可能性があるのだから、裁判官の狭量さを感じました。(<多少、立証趣旨が不明確でも聞けばいいじゃないか。尋問時間の枠は決められているのだから>)
裁判官ははなから有罪判決を書こうとしているのかと思ったほどです。おそらく、統一、反統一を抜きにして、多くの傍聴人もそう思ったはずです。
もっとも、公判の中頃から、裁判官の姿勢は公正なものに変わりましたが。
Re 世界日報
アップありがとうございます。
同感です。
結果ありきの裁判に見えます。
Re: Re: 世界日報の記事
>もっとも、公判の中頃から、裁判官の姿勢は公正なものに変わりましたが。
米本さんの知る限りで、裁判官の姿勢が公正なものに変わった「きっかけ」や「流れ」のようなものはあったのでしょうか?裁判の雰囲気を知りたいと思い非常に気になっています。
裁判官の姿勢の変化
>米本さんの知る限りで、裁判官の姿勢が公正なものに変わった「きっかけ」や「流れ」のようなものはあったのでしょうか?
K氏の尋問のとき、裁判官が宇佐美氏を見るときの顔つきは睨むような険しいものでした。
それが証人尋問が進むにつれ、だんだんやさしい顔つきになっていきました。
宇佐美氏への言葉使いもやや丁寧なものに。
とりわけ、宇佐美氏への尋問で、公訴事実1~5において、K氏と自分との位置関係をスライドと写真を使って詳細に述べたとき(K氏の証言とまるで違う)、裁判官はうなづくように見ていました。
このときの宇佐美氏への言葉づかいはそれは丁寧なものでした。1、2度ですが、「被告人」ではなく、「宇佐美さん」と呼んだこともありました。
(検察側証人に対する態度と同じ。それゆえ、公正だと感じたわけです)
それで、<無罪判決の可能性があるな>と思いました。
しかし、このあとの第9回公判だったか、裁判官尋問のときの裁判官は元通りの険しいものだったと聞いています。(私は欠席)
宇佐美氏のK氏に対する感情(例の恋愛感情)に、裁判官はとてもこだわっていたようです。
RE: 裁判官の姿勢の変化
>しかし、このあとの第9回公判だったか、裁判官尋問のときの裁判官は元通りの険しいものだったと聞いています。(私は欠席)
元通り険しいものとなった理由は分かりませんが、裁判官が下記の記事のような立場から判決を下すことを望みます。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/537924/
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