信仰切れず 鎖が切れた?朝日新聞の記事を紹介する
保護説得と親子関係(16)
前回のニュース21の記事「あの高山牧師がリハビリ施設?を建築中!」のコメント欄で、手錠や檻のことが話題となっていた。
そこで、今回は1984年5月14日付の朝日新聞の記事(夕刊)を紹介しておく。
“救出家”の示唆によって、親が子どもを鎖でつなぎ、脱会説得をしていた?という記事である。
ブログ媒体に合わせて読みやすくするために、改行や行を空けたりしているが、数字の表記を変えた以外、見出しを含め、文字、文章は一切変更していない。(注)は筆者である。なお、記事には鎖の写真が「鎖で信仰を切り離すことが出来るか」というキャプション付きで載っている。
信仰きれず 鎖が切れた信仰から切り離そうと、親が娘をクサリで柱につないだ。その20歳の娘は、だまして借りたツメ切りでようやくクサリをつけたまま、つながれていた山荘から逃げた。
信仰で、親から離れた世界に入り込み、それまでと全く人間が変わったように見える娘を、クサリにつないでも元の状態に戻したい、という親の気持ちは分かる。
だが、若い娘が20日間も、数十センチ程度しか動けぬクサリにつながれ、トイレは便器、フロにも入らなかったという話は、異様で、痛ましすぎる。同様なケースは、ほかにもあった。そう親たちに勧める“救済家”のいることも分かった。
しかし、いかに異質な宗教としても、信仰といった心の問題を、束縛や監禁で変えることが、出来るのか。
家庭の不安定化、親子の乖離(かいり)の深まり。混迷の心の時代を象徴する、重苦しい問題である。(高木 正幸編集委員)(注1)
娘は昨年、東京都内の大学に入学して間もなく、勧誘をうけて原理研究会のメンバーとなった。統一教会(世界基督教統一神霊協会)の教義、統一原理の基盤に立つ学生組織である。娘は間もなく、父親が大手企業に勤める家を出て、ホーム(原研の合宿寮)での共同生活入りし、そこから大学に通学し出した。
家に帰らず 親いら立つ
親は、娘の変化に驚き、家を離れての生活に猛反対した。毎週のようにホームに行き、家に帰るよう説いた。ホームの責任者にも会い、説得を頼んだ。しかし、娘と親の間には心のズレがあり、とくに信仰のことになると強く反発、家に帰ろうとしない。そして、正月にも家に帰って来ず、研修会に参加したことや、キャラバンで地方に出かけたりしていることを知って、親のいら立ちは極度に高まった。
信仰に一変する子どもと、それに混乱、ろうばいする親。ずっと以前からよくある話だが、多くの場合、信仰にとりつかれた子どもの頑固さに、親の努力は挫折し、その宗教組織への憎しみをつのらせる。
クサリにつながれた娘は、親との融和をはかれとする原研側の説得もあって、3月はじめ、一度家に帰った。だが、信仰をどうしても捨てないとする娘と、それに反対する親の口論の末、娘は再びホームに戻った。
2週間後、再びホームに迎えに行った親や知人との長い論争、原研側の説得もあって迎えの車に乗るが、自宅と違う遠い山荘に連れて来られたとたん、家族や親せき、父親の会社の部下など数人にベッドにおさえつけられ、柱に穴をあけて通してあったクサリで、両足首をしばりつけられた。
その部屋にはいつも家族がいて、部屋の入り口もだれかが見張りしている。その間、親や、親にクサリ監禁を示唆した“救済家”が、信仰をやめるよう迫るが、娘は拒む。一生監禁、精神病院への強制入院、といった話も出たという。(注2)
ツメ切りで鎖の輪切断
ベッドの上で数十?程度しか動けなかったという生活が約20日間つづいたある日、娘は家族をだましてツメ切りを借り、約1日かかってクサリの輪を切った。
足首に錠でつないだクサリをつけたまま、隣のベッドでうとうとしている家族のスキをみて、山荘を飛び出して、山道をかけおりて逃げた。「しばらくそっとしておいてほしい」という書き置きを両親に残した。
両親は「ほんとうにこわい信仰。変わってしまった娘を何とか元に取り戻そうと、ああするよりはなかった」という。そして、もう一度娘の所在を教えてほしいと原研側にも頼んだが、娘自身がそれを拒み、また監禁されてはと知人宅にひそみ、学校にも行っていないという。クサリ事件が、親からの離反をさらに深めたようにみえる。
原研や統一教会から離すため、親が子どもをクサリにつないで家から出さないようにしたという話は、ほかからも聞いた。窓をクギづけにし、外から部屋のカギをかけて監禁されていた娘が、ハサミで壁を破って逃げ出したという話もあった。睡眠薬をうたれて精神病院に連れてゆかれ、入院させられたという例もある。
親たちがそういう行動に出る第1は、信仰による子どもの急激な変ぼうだろう。それまでの親子、家族関係が崩れ、手のうちにあった子どもが、自分たちの知らない世界へ入ってゆく。自分の子どもでなくなってしまったと思う不安、危惧(きぐ)である。
しかし、信仰するかしないかは、子ども自身の選択である。信仰の自由が保障されているいまの社会で、信仰するもしないも、本人の自由だ。まして、この娘のような成人の場合は、なおさらそうだろう。その信仰の問題点を説き聞かせるのはいい。だが、それにクサリをもって臨むという、親の側の親子観、人間観も、正しいとは思えない。(注3)
孤独な若者 特異な宗教
この場合、親の多くがいう、原研、統一教会の特異さ、異質さも、確かに無視出来ない。
ホームなどの共同生活や宣教活動、教祖がめあわせる合同結婚式、教義としての反共産主義と連携組織としての国際勝共連合の存在。宗教はどれも、それを信じない人間の目には、奇異なところをもつものだが、統一原理と呼ぶ教義に基づく原研、統一教会の信仰様式は、他と比べて特異性が強い。
批判の第一は、どこで何をしているかかくす、合同結婚することなど親にもいわない場合があるなど、親、家族との変化である。そこから起こるトラブルの余りもの多さが、この宗教が社会的に問題視される一因である。
しかし、その信仰に入った学生や若者は、暴力や威迫でそうなったわけではない。(注4)
家庭問題の悩みなどから信仰に救いを求めて入った者もいるが、話を聞いた多くは、新しい生き方や自立、自分が心を開くことの出来る仲間を、その信仰に見いだして熱くなっていった、まじめで、孤独な若者たちのようであった。
突くべきは、そういう若者たちの心理の土壌だろう。たとえば、受験、成績第一の家庭や学校より、信仰に人生の価値観、充足感を見いだしている状況である。若者をとらえている異質な組織、宗教はほかにもふえている。過激な左翼組織に入って家に帰らず、財産を組織に持ち出した学生について、親から相談をうけたこともある。日本だけでない。「より強い、絶対主義的で、高度にグループ指向で、厳格な規律をもつものに若者がひかれてゆく時代」と、あるアメリカの学者も書いている。
だが、異質な信仰のとりこになった者を、クサリといった強制的なやり方で、切り離すことが出来るか。これには原研、統一教会について批判、信者の救済活動をつづけている宗教家、宗教学者も否定的だった。
「心の世界に対するあるべき姿として言語道断のやり方。人間の魂や人格に対するじゅうりん」
「理性を欠いた論外の強制」
物理的強制 法的に問題
最近、統一教会を離脱した元幹部が、こうもいった。「クサリや監禁などの物理的、強制的な力で信仰を変えることなど出来た例はなく、むしろ長い拘禁状態なとは、精神、情操面で異常、痴ほう的な人間にしてゆく」
クサリでつなぐことを親に示唆した“救済家”は、睡眠薬を注射するなどして精神病院に強制入院させたとして、統一教会員3人から告訴され、現在係争中であった。「クサリは監禁のためでなく、静かに落ち着かせて話し合いの場をつくるため」と弁明する。(注5)
だが、「精神に異常を来したとか、自殺の恐れがあるといったことなら別だが、親の気に入らない宗教に入ったからといって、クサリや精神病院などの手をつかうのは行き過ぎた不法監禁で、親といえども許されない」(大野正男弁護士)と、法的にも問題が指摘されている。
暗中模索の、心の時代といわれる。とくに若者が、いつ何にとらわれるか分からない、不安で、不確実な世の中なのだ。その対応に、いまの社会をつくった多くの親は惑乱するだけだろう。ただ、心の問題に立ち向かう“武器”は、辛抱強く、温かい心であっても、クサリなどでないことだけは、間違いない。※
(注1)執筆者の高木正幸さんは、「右翼」や「左翼」、「同和問題」を精力的に取材した記者として有名。
(注2)この事件で親を指導したのは、牧師ではなく、一般人。そのため、高木記者は呼び名に困って、ヒゲをつけて「“救出家”」と表現したのだと推測する。本人たちがしきりと「救出」「救済」という言葉を使っていたからであろう。
また、高木記者は「親にクサリ監禁を示唆した“救済家”」と書いている。示唆という表現を使ったのは、教唆と書けるほどの裏付け取材ができなかったのだと推測する。
ところで、この頃、一般人として、きわめて暴力的な監禁指導をしていたのは、「原理運動被害者家族の会」代表の本間てる子や、「原理被害者更生会」会長の後藤富三郎、同会顧問の丸山隆らであった。
彼らは鎖だけでなく、記事のあとに出る精神病院に強制入院させるようなこともやっていた。実際、本間てる子は信者である自分の娘を精神病院に送っている。『我らの不快な隣人』200頁で触れたレイプ事件の犯人は丸山隆である。
本間の「原理運動被害者家族の会」が主にやっていたのは、相談にくる信者家族を牧師など強制説得者に紹介することであった。この会は事実上解散したようだが、95年に発足した「全国統一協会被害者家族の会」(代表は神保)に引き継がれて、現在も相談活動を活発に行っている。
(注3)高木記者は「親子観」を具体的に語っていないが、その前の記述(「自分の子どもでなくなってしまった」)とを合わせると、一個の人格をもった子ども観ではなく、「子どもは親の所有物」という子ども観であろう。
(注4)なぜ、若者が統一教会に入信するかわからない。そのため、取材・調査することなく、マスコミや学者は「洗脳されたからだ」、95年以降は「マインドコントロールされたからだ」というステレオタイプで無内容な説明が行われることになった。
これを受けて、牧師たちは「洗脳、マインドコントロールをとくには保護(拉致監禁)説得するしかない」と信者家族に説明するようになっていった。
(注5)告訴した3人の教会員の1人が『我らの不快な隣人』の167頁に登場した徳島市議の美馬秀夫氏である。
※ この記事を読めば、高木記者の監禁説得問題へのスタンスは私のそれと全く同じであることに気づかれるだろう。また、この記事の「鎖につないで」を「マンションに閉じ込めて」に変えれば、今でも十分に通用する記事であるということも。
ただし、くれぐれも念を押しておきたいのは、現在の保護説得は手錠とか鎖といったオドロオドロシイ道具は使われておらず(少なくとも私は不知)、もっと洗練されているということだ。
◆誰が、家族に娘を鎖で縛るように指示したのかは不明だったが、川崎経子牧師の『統一教会の素顔』に犯人の名前がイニシャルで示されていた。以下は、同書からの引用である。
「この記事は、私も県内の牧師から送って頂いて読み、親が娘を鎖で繋いで説得したことに、ものすごいショックを受けたものでした。今でも、私のスクラップブックに大切にファイルされています。この事件は、その当時の被害者父母の会会長だった故G氏の指導によるものだったことも、ずっとあとにあとになって知りました」
G氏とは、(注2)で書いた後藤富五郎のことである。注では、「原理被害者更生会」会長と書いたが、「原理運動被害者家族の会」の代表も、本間てる子の前後に務めていたことがある。
◆鎖で縛られた娘さんは慶応大学の原理研究会に所属していた。鎖を切って脱出したあと、韓国に渡り、結婚。現在、語学学校の教師をしているという。
伝をたどって、彼女にメールしたが、返事はなかった。
人を介して聞いたところによると、
その後、両親とは統一教会のこと、当時の拉致監禁のことには触れないことを条件に、交流している。もう、当時のことには触れたくない
?ということだった。
インタビューできないのは残念だったが、条件つきでも両親との交流があると聞いて、少しばかり安堵した。
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- [2010/02/19 19:09]
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コメント
知ってます。
それにしても1日かけて鎖をつめきりで切る努力には頭が下がります。
この時代はこちらのようなハードな監禁もありましたが、和賀牧師のような監禁には反対の立場のよりソフトな反対牧師も有名でした。まあ、ソフト路線では、効果がなくなり、徐々にハード一色なっていったのでしょうが・・・・。
この記事読んだことがあります
統一教会を恨む気持ちを抱くのも無理からぬことと思います。しかし、私の両親は、このような暴挙にでなかっただけよかったと思います。勘当だ! 縁切りだ! はよく口にはしましたが...
結果的には
当時は統一教会も脱会支援もオドロオドロシイものだったようですが、現在はそのようは事は行なわれていないとのことで、良かったと思います。
>「精神に異常を来したとか、自殺の恐れがあるといったことなら別だが、親の気に入らない宗教に入ったからといって、クサリや精神病院などの手をつかうのは行き過ぎた不法監禁で、親といえども許されない」(大野正男弁護士)と、法的にも問題が指摘されている。
との事。まったくその通りだと思います。逆に言えば、「精神に異常を来したとか、自殺の恐れがあるといったこと」であれば、不法監禁とはならないという事になると思いますが、この事件は結果的にはどうなったのでしょうか?
情報を求む
被害女性について、もう少し情報がありましたら、教えてください。
被害女性は慶応大学の原理研究会のメンバーだったようです。
彼女のことを知っていらっしゃる方は、ぜひ、情報をお寄せください。個人メールでもかまいません。
鎖の軛から逃れてから、どんな人生を歩まれているのか、親との関係はどうなったのか。
高木記者の人権意識の高さに敬意
日本国も落ちぶれたものと思うと悲しくなる。
訂正
高木記者の人権意識の高さに敬意
ツメ切りで脱出-聞いたことはあります
カテゴリーの変更
その後の被害女性の情報を引き続き、求めます。よろしくお願いいたします。
現在、彼女の居場所を探しています。コンタクトが取れれば、報告いたします。
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